Dialogue
くりやの対話

2023/07/18

Canaloで目指したい未来

翠川裕美さん×栗岡大介

2023年6月、くりや株式会社は子会社としてCanalo(カナロー)株式会社を設立しました。その新会社の代表に就任したのが翠川裕美(みどりかわ ひろみ)さん。これから栗岡と翠川さん、両者が持つ異なるバックグラウンドを活用し、新たな事業を始めます。スタートのタイミングでのご挨拶も兼ねて、二人がCanaloを立ち上げた理由、そしてCanaloで目指したい未来について対話しました。

子会社設立及び新事業開始に関するお知らせ
(リンクはこちら)

翠川裕美(みどりかわ ひろみ)さん

1981年東京都生まれ。2004年に慶應義塾大学環境情報学部卒業後、株式会社スマイルズに入社。2008年に株式会社イデーへ入社し、宣伝販促室にてブランド全体の販促企画を担当。2013年に企画、販促プロモーション、デザイン、アーティストマネジメントなどを事業とする株式会社シロアナを設立。2016 年に株式会社モンキーブレッドを設立し、ECに特化したクリエイティブエージェント「KATALOKooo(カタロクー)」を立ち上げる。ウェブショップサービスを通じて、作家・ブランドと社会に向けた新しい価値創造を実践する。2023年6月にくりや株式会社の子会社であるCanalo株式会社代表取締役に就任(※各社兼務)。

クリエイティブ業界の課題

栗岡大介:僕が翠川さんと最初に出会ったのが、3年前くらいです。共通の友人を通して紹介してもらって。とにかく「熱量が高い」というのが第一印象。

翠川裕美さん:ふふふ、熱量しかないですもん(笑)。

栗岡:何より感心したのは、熱量の源泉が「あれやりたい、これやりたい」という利己的なものではなく、「業界を、社会を、本気で良くしたいんだ」という利他的なものだったこと。一方で「その熱量を言葉や事業に転換し、社会に伝えることができるのか?」という心配もありました。

翠川:私はクリエーターが創作活動をする上でブランディングとビジネスの両方を成立させるサポートをしてきました。自身で運営する「KATALOKooo(カタロクー)」は新しい時代のカタログを目指して、クリエーターのポートフォリオサイトとECサイトを融合させたウェブサービスで、ファッション、ジュエリー、アートなど幅広いブランドに参加してもらっています。

KATALOKooo HP:
https://katalok.ooo/

実際に同事業を自分で手がけてみて改めて感じたことですが、クリエーターを取り巻く状況というのはすごく難しいものがあるんですよね。

栗岡:マネジメントの問題、ですよね。僕が翠川さんに特に共感したのは、翠川さんがいつも向き合っている「問い」です。翠川さんはいつも「才能あるクリエーターたちが社会で活躍するために私に何ができるか」という自身の問いに対する考えをマネジメントの観点から語っていました。

翠川:オリジナリティがあってセンスや人柄もよくて、というクリエーターの方々は今の時代だともう本当にすぐ人気者になって、どんどん仕事の依頼が来るんです。SNSなどのコミュニケーションの手段が多様化したことも拍車をかけていて、自身の作品をアップロードしているインスタグラムなどを通じて直接企業からクリエーターへ連絡が来ます。

問題は、クライアント・ワークは獲得できても、業務フローの作成や各種交渉などのマネジメントが極めて苦手なところです。「どのように仕事を受けるべきか」がわからないんですよ。

栗岡:人気者になると短期的に金になりそうだと考える人だってたくさん寄ってきます。そうすると、企業だけでなく個人も、関係構築や事業共創が困難になります。

翠川さんの仲間のクリエーターたちは、ある分野に突出した才能を有する「ギフティッド」が多いと思います。「ギフティッド」は、いい意味で「歪(いびつ)」です。「ギフティッド」とは、特定の分野に強い興味を示し独自の才能を開花させる一方で、業務内容の交渉や業務フローの設定といったマネジメント力や社交性を有する方は多くいません。また、彼女ら、彼らは個性的だからこそ、他者からの共感を得ることが難しく、ビジネス・パートナーが不在であることも多いかと思います。

翠川:そうなんです。クリエーターはみんな創作活動に集中したいというのが本音ですが、オファーが来るままに仕事を受けてしまい、最終的にコントロールできずに疲弊しきってしまう…という悲惨な事例をこれまでたくさん目の当たりにしてきました。企業(仕事の発注者)もクリエーターの作品へは一定の理解を示しますが、マネジメントといった不得意な部分までを勘案してオファーはしてくれません。もちろん、企業とクリエーターの間に入るエージェントも存在しますが、彼らも歩合で仕事をすることがほとんどなので、ビジネスモデルを勘案すると結果的に「仕事はできるだけ受けましょう」という姿勢が強くなってしまいがちです。

栗岡:僕からすると、翠川さんも新たな価値を創る素晴らしいクリエーターですよ。企業とクリエーターの両社が拠って立てる存在として、プロジェクトの「部分最適」ではなく「全体最適」を成し遂げる。だからこそ、翠川さんの仲間は「ギフティッド」な方々が多くいるのではないか、また自身で事業をこれまで創造してきたバックグラウンドがあるからこそ、企業・クリエーターの両方からハードな相談が来るのではないか、そんな仮説を持っています。

つまり、クリエーターの世界にもちゃんとしたタレント(個々の才能)の育成・マネジメントを行う組織と人が存在すれば、翠川さんが日々直面している課題を解決することができる、ということですね。

翠川:まさにそうなんです。流れ作業のように仕事の受発注を行うのではなく、長期的な目線をベースにクリエーターを育成し、成長する機会を創造する、そして才能が社会に持続的に還元される、そんな専門的なマネジメントの仕組みが必要です。本当は私がみんなのマネージャーとして同行したいくらいなのですが、一人では限界があり、もどかしい思いをしてきました。

…と、そんな話を会う度に栗岡さんにも話していたんですよね。何か解決できる方法はないものかな、と。

そうしたら今年の春くらいに、栗岡さんが突然ひらめいたようで。「そうか、僕がクリエーターにお仕事をお願いする発注元になっちゃえばいいんだな」って言い出しました。

栗岡:そうですね、僕の中では、異なる課題の点と点が繋がった瞬間でした。ただ、少し唐突だったかもしれませんね(笑)。

翠川:そこから栗岡さんは急に火がついた感じになって、Canalo株式会社を立ち上げる話にまで発展していきました。ここまで、スピードが早かった…! せっかくなので、今日は栗岡さんの思考の変遷をあらためて聞いてみたいなと思っていました。

二人の課題が交わる部分

栗岡:突然の思いつきのように感じたかもしれませんが、僕にとって翠川さんの話は他人事ではありませんでした。これまでも、経済合理性と社会性の両立は自分自身に課してきた課題でした。

というのも、僕には常に「成長とは進化なのか」という問いがあるんです。これは社会人になって株式市場と対峙していた時にも感じていたことですが、自分で会社を興してみてさらにその想いは強くなりました。

少しアカデミックな話になります。例えば、ドイツの社会学者・マックス・ウェーバーが「プロテスタンティズムの禁欲的精神が近代資本主義の誕生に寄与した」と説いたように、私たちが日々接する経済思想は哲学、宗教思想をベースとした「善悪」に大きな影響を受けています。

チェコの経済学者・トーマス・セドラチェクは、現代の経済学はあたかも、数学モデルによって「価値中立的」に見せているが、根底には「効率性・競争・成長」が「善」であるという価値観があることを指摘していて、「そもそもこの価値観が正しいのか?」と問題提議をしています(※トーマス・セドラチェク著・『善と悪の経済学』より栗岡が意訳)。

僕たちがこれからの未来を良く生きるためには、改めて「適正な成長、適正な事業規模って何なんだろう」という問いから始めようということだと思います。日本では経済的な成長から取り残される企業も、過剰な成長を志向してバーンアウトするような企業も増えています。それをどう捉え、何を学ぶのか…と、自分自身に問い続けています。

翠川:ああ、今思い出しましたが、私も同じようなことを栗岡さんに話したことがありましたね。「こんなことを言ったらバカと思われるかもしれないけど、私はたぶん資本主義が嫌いなんだ」って。小さい頃からこの資本主義の仕組みに対してわからないなりに違和感を持っていました、今までもどこかで「ポスト資本主義的」なやり方を模索してきた自覚があります。それを栗岡さんに言ったら、「それは、そうだ! 素晴らしい!」と、すごく共感してくれました。正直そんな共感をしてもらえると予想してなかったので驚きましたが、今振り返ると、そのときの対話も今回会社を立ち上げるキッカケになったのかもしれませんね。

栗岡:そうですね、良い対話でした。あの対話が今の、これからの僕たちへと繋がっていきます。以前、このダイアログで株式会社Matchaの青木代表とも話したことなんですが(記事はこちら)、2023年春に僕は落ち込んでいたんです。ChatGPTを始めとするAIツールが世の中に普及する中で僕たち人間は、そして社会はどうなるんだろう、と。

あれこれ自問自答しながら辿り着いた答えが「未来はきっと懐かしい」というものでした。

歴史を遡ると産業革命(※栗岡はAIツールの進化を産業革命と捉えている)は人類に余暇時間を創出し、その余暇時間に対して新たな「サービス産業」が誕生してきました。

僕の仮説では、AIが「効率化」を進める中で、僕たちは旅、恋愛、趣味を通じて「人間性の回復」を志向するのではないか?…と。なぜなら、AIはその時間を捻出してくれるからです。そうすると「人間にしかできない」体験を通じて自分たちの起源、歴史に目を向けるなど、僕たちは過去に目を向け「在りたい・在るべき姿」を先人から学んでいく。その繰り返しを通じて、未来とはどこか懐かしいものとなるのではないか…そんな仮説を持っています。

それで着眼したのが、日本の伝統文化だったんです。

伝統文化に最先端のクリエーターが出会ったら

翠川:私自身は特別に日本の伝統文化への思い入れが強かったわけではありませんし、栗岡さんの口から、そのアイデアを聞いたときは意外でした。

栗岡:このアイデアはものすごくシンプルです。日本の伝統文化って、基本的には当時の最先端の技術を持ったクリエーターたちの集合知がつくったモノやサービスなんです。ただ、当時から環境が変わり、「先端を攻める」から「継ぐ」が目標となってしまっている方々の姿が散見されます。これは、伝統文化だけでなく、現在の日本企業が直面している課題にも示唆があります。事業を「継ぐ」、「継続する」ことを目標としたときに、「先端を攻める」姿勢が失われ、現代のコンテキストに基づいたプロダクト、サービスのアップデートが止まり、イノベーティブなものが生まれにくくなる。結果的にヒト(後継者)、モノ(プロダクト、サービス)、カネ(ファイナンス)全て過少となり、廃業寸前、伝統だけでなく雇用も消滅します。現在の日本の社会課題そのものではないか、と僕は思っています。

一方で、翠川さんの周辺にいるクリエーターたちは、やはりエッジが立っている。皆さん、最先端の技術や考えを活用し、自身を表現したいと純粋に考えていると思います。もともとは最先端の集合知であった伝統文化に今の最先端のアイデアを繋げることができれば、それは日本の文化をより世界の発展に貢献出来るものへと昇華できるのではないか、そんな仮説を持っています。

翠川:なるほど、それは面白いですね。伝統文化の捉え方が少し変わるかもしれないです。クリエーターたちも喜ぶと思います。

栗岡:僕は先日、泡盛の製造工程を学んできました。泡盛のつくり方って面白くて、熟成工程で新たにつくったお酒を元々あったお酒に混ぜていくそうなんです。「先代がつくった酒と俺のつくった酒がどう混ざるかだけじゃなくて、まだ生まれてきていない俺の子孫たちにどんな混ぜる酒をつくってやるのかって考えるのが楽しみ」だと、生産者の方がおしゃっていたことが印象的でした。熟成とは、過去と現在と未来が繋がることではないか、やはり「未来はきっと懐かしい」のではないかと改めて思いました。

子会社として事業化する理由

栗岡:今回の子会社のスキームでは伝統文化を担う会社や個人の事業承継、再生という部分を僕が、その事業内容とシナジーが起きそうなクリエーターの育成・成長機会の提供を翠川さんが手掛ける、というイメージです。

お互いが有する知識やネットワークで良い補完関係を創出し、クリエイターの心境がわかる経営者を育て、経営者の心境がわかるクリエーターを育てるという狙いがあります。

翠川:栗岡さんがCanaloを設立し「僕たちがクリエーターへの成長機会をつくっていこう」と言った時に、私は「そこまでコミットしてくれるんだ」という驚きがありました。

クリエイティブのわかりやすい例で言うと、大きな仕事は通常は広告案件が多いんですが、移り変わりの多い広告はどうしてもその時期の流行として消費されやすいんです。せっかくの才能がそこで消費され続け、少し時間が経つと「時代遅れ」という雰囲気になってしまうのが、心底悲しいなと思っていました。それは広告に限らず、Webの表現なんかもそうですし、モノづくりのデザインなど大なり小なりすべてに言えることです。その点、長期的な目線を持つ伝統文化という世界であれば流行を追って消費されるようなことにはならないし、何より発注者側がクリエーターの立場にこれだけ深い理解を持ってくれているケースというのはレアです。栗岡さんらしい提案でした。

特に私はZ世代のクリエーターたちの感性にすごく惹かれるところがあって。彼らは先ほど話していたような、私が思うポスト資本主義のイメージに共感してくれます。やる気のある若いクリエーターが既存のビジネス文脈で搾取されることなく、長期的に活躍できるような「場(ば)」をつくる、それは私たち世代の役割ではないか、そんなことを考えています。

栗岡:そうですね。クリエーターたちはこれからの時代をアップデートする日本の資産です。現状では安心して受注できる仕事が少ない、なら僕自身がいっそ発注側になってみようということです。日本の課題である伝統文化の事業承継という問題を解決しつつ、クリエーターの働き方改革にも繋がる仕組みをつくることが出来るのではないか。手探りではありますが、既に事業承継の候補はあります。

Canaloは希望の運河となる

栗岡:今回の子会社には明確な売上・利益目標はありません。ご縁があった事業を承継させていただき、ご縁のある仲間が集ってエッジ(先端的)なことへ挑戦をする、それだけです。だから、会社が設立された時点で成功なんです(笑)。

これは、MITメディアラボのミッチェル・レズニック教授が「ライフロング・キンダーガーテン」という本の中で提唱しているクリエイティブな学びのプロセス「4P」の実践でもあります。Projects (プロジェクト)、Passion (情熱)、Peers (仲間)、Play (遊び)の4要素のことですね。僕もこれを実践してみたいとずっと思っていたんです。そういう「場」が欲しかった、そしてそんな「場」ができました。

翠川:私は異分野からその「場(ば)」に集まったギフティッドな人々同士が新たな価値を共創するバランスをとっていきたいです。

残念ながら今の社会はあらゆるものが離れてしまっている。私のイメージでは二つの線があって、一つは再現性と創造性、もう一つが精神性と身体性です。異なる才能が交差する「間(ま)」に人々の心を動かす「情緒」が生まれる。「間(ま)」とは日本独特な考え方です。そこには、様々な空間と時間が交差します。過去、現在、未来、が交差する「間(ま)」に多様な考えを持った人たちが集まりプロジェクトが走り始める。なんだかすごく抽象的な話なんですけど…

栗岡:僕はそのイメージ、理解できます。Canaloという企業でこれまでなかった「場(ば)」を設(しつら)え、そこに独自の「間(ま)」を創っていく。そこでは、過去と今と未来を俯瞰的に見ながら、個々の能力の拡張と社会へのフィードバックを感じることができる。

翠川:まさに社名のCanalo(カナロー)へはそんな想いを込めました。Canaloは、Channel(チャネル)からくる造語です。Channelは、ファイナンスからクリエイティブまで、それぞれにチャネルを合わせる、という意味です。ラテン語はCanal、エスペラント語はKanaloだったので、造語でCanaloにしました。

栗岡:Canalは「運河」でもあります。僕たちがこれからさまざまな冒険を続けながら、クリエーターの皆様や伝統文化の担い手の皆様にとってのインフラ=「希望の運河」をつくっていきたいですね。

まだまだ、旅は始まったばかり、皆様どうぞよろしくお願いします!

写真:Yu Aoki