Dialogue
くりやの対話

2022/04/20

家庭や食卓を幸せにするフードテック

吉川欣也さん×栗岡大介

国内外で様々な顔を持つ七色仮面・吉川欣也さん。米国から見た日本について、フードテックや起業されたヴィーガン餃子事業について対話しました。

吉川欣也さん

東京ヴィーガン餃子(by Republi9 Inc.) Founder and CEO 1990年に日本インベストメント・ファイナンス(現大和企業投資)入社、1995年8月に株式会社デジタル・マジック・ラボ(DML)を設立し、社長・会長を歴任。1999年9月にIP Infusion Inc. (San Jose, CA) を共同創業し、2006年にACCESSに$50Mで売却。Miselu社、 Golden Whales社、Republi9社のFounder & CEOを務める。

鎖国化していく日本

栗岡大介:吉川さんとお会いしてまだ4か月ほどなのですが、吉川さんからはフードテックだけではなく、自動車、化学、ITなど多岐にわたる業界の先端技術について、いつも勉強させていただいています。日本の方はなかなか吉川さんのお話を耳にすることはないと思うので、自己紹介いただけますか。

吉川欣也さん:はい。私はシリコンバレー在住の起業家です。現在は東京ヴィーガン餃子というブランドを日本で展開しています。元々、シリコンバレーでIT企業を立ち上げてきた経緯がありまして、従来の食品業界にITの考えや技術を持ち込んで事業を展開しています。

ITと食の掛け算で事業を展開していることから、私たちのことをフードテックカンパニーという風に呼ぶ方々もいらっしゃいます。また、国内外の企業に対して、シリコンバレーの情報や発想をベースにしたコンサルティングも行っており、守備範囲は比較的広い方だと自負しております。

栗岡:ありがとうございます。現在は、日本と米国を定期的に行き来されていますが、コロナ禍の中での日米の比較を経て、新たな気づきはありますか?

吉川:シリコンバレーでは、コロナをきっかけに明らかな変化があります。シリコンバレーといえばテクノロジーというイメージが強いですが、ウイルスに代表される「見えないもの」に対する意識が高まっています。例えば、数値化・可視化しにくい家族や社会との関係、また世界との向き合い方というものについて、今は「考える時期」と捉えている人々が増えてきていますね。

栗岡:確かに先日、米国の友人と話している時に「ウェルビーイング」というキーワードが頻繁に出てきました。日本語に訳すと「よく生きる」という意味ですが、自分を取り囲む社会との新たな付き合い方を模索する、またはITの技術革新によってこれまで可視化しづらかった感情や心の変化について理解を深める機運が高まっているんですね。一方で、日本についてはいかがですか。

吉川:鎖国化が進んでいるように感じます。政府の対応の遅れもあり、人材の流動性が著しく低下したことで、情報だけではなく、資金(海外からの設備投資)やアイデアの創発も困難になってきています。意図せぬ形で「鎖国」のような状況を作り出してしまったのではないでしょうか。世界では、先ほどのウェルビーイングに加え、WEB3.0をはじめとした新たな価値観を背景に、事業が次々と生まれています。「鎖国」が日本にどのような長期的な影響を及ぼすのか注視が必要です。

栗岡:なるほど。私も一人の起業家として、今後は積極的に海外に出ていかなければと考えています。

IT×食で世界の課題を解決する

栗岡:吉川さんご自身の事業のお話を伺う前に、フードテックについてご説明いただけますか。

吉川:現在、世界では多くのフードテックと呼ばれる企業が産声をあげています。理由は、大きく二点。一点目はご存知の通り、世界の人口の増加があります。将来、地球の人口は増加し、この星には100億人が住むかもしれませんよね。そのような環境の中、どのように食という「生きるための資源」と向き合うのか。ここに大義とやりがいが生まれたことが第一要因です。

次に、資源の枯渇や人手不足という課題が山積する食品業界において、IT企業家たちがテクノロジーを活用してその課題を解決する機運が高まっていることも挙げられます。

栗岡:IT×食というこれまでになかった掛け算でフードロスや物流といった課題を解決しながら新たな産業を作っていくということですね。また、マーケティングとの相性もよさそうです。

吉川:はい。アメリカのスーパーマーケットに行くと、当たり前にヴィーガンフードのコーナーがあります。また、レストランに行っても必ずと言っていいほどヴィーガンメニューがある。個人に目を移すと、Z世代やミレニアルズの間で週に一、二回は肉・魚を食べない日を設ける人口が増加しています。

フードテックカンパニーはこのように食への意識や嗜好が多様化する中、それらをデータ化し、改良を重ねています。加えて、Apple社の製品がそうであったように、アーリーアダプターを獲得し、味だけでなくマーケティング戦略を実装し、事業をスケールさせています。

栗岡:これはいい話ですね。食卓という最小の社会における選択肢(多様性)を増やすことが、食品産業の課題だけではなく、個人の満足度の拡充にもつながるということですね。味もアプリ開発の様に、「1.0」→「2.0」→「3.0」と改良され、商品が次々と生まれてきます。

吉川さんが立ち上げられた東京ヴィーガン餃子でも 「餃子で家族をつなぎ、世界を笑顔で包む」というコンセプトのもと、環境負荷の軽減や食の多様化を促進するような活動をされていますね。

吉川:ありがとうございます。元々、餃子というものは1300年前に漢方薬の大家が凍傷を癒すためにふるまったのが起源だと一説によると言われています。体にいいものを小麦で作られた皮で包み、水餃子としてふるまった。まさに医食同源を象徴するような食べ物であるという一説があります。

一方、現代社会に目を移すと、餃子市場は拡大しているものの、起源から外れた現象が起こっています。例えば、冷凍餃子のパッケージの環境負荷、カロリーの上昇、ヴィーガン向け商品の不在など。私は、それを事業機会と捉えました。

開発を行うときにいつも念頭においているのはアップルやGoogleが餃子を作ったらどんなものができるのかということです。両社ともに既にCO2の排出量を可視化するなど環境と経済両面での思考をもとに商品開発を行いました。

弊社では、包装紙を紙にすることで、環境負荷を軽減しています。パッケージデザインも冷蔵庫を開けたときに消費者が喜ぶようなものにする。味だけではなく、社会と共生するための商品づくりを徹底しています。

家族と未来の食卓への愛

栗岡:御社の餃子は味もさることながら、心が豊かになるストーリーがあります。だからこそ、D2C(直販)を通じてリピーターを多く獲得されていますね。ところで、吉川さんはなぜ「餃子」という食品を選ばれたのでしょうか。

吉川:理由は二点あります。一点目は、若い頃に中国に出張する機会が多く、出張先で疲れた時に餃子を頻繁に食べていたという点。もう一つは、私の子供たちが時を経ることにヴィーガンになっていったことです。

次世代の消費をけん引する子供たちは、ある種のファッションやトレンドの一部としてヴィーガンを生活に取り込んでいます。私たちがスターバックスでコーヒーやカフェラテを買うように、世界の10代は新たなヴィーガンフードも取り入れながら未来の食生活をデザインしているんです。

栗岡:なるほど。東京ヴィーガン餃子には家族や未来の食卓への愛が込もっているんですね。だからこそ、吉川さんは、地域の小学校などで餃子を通じた食育講座も実施されています。

吉川:はい。今の子供たちは食に関する経験が少なくなってきています。例えば、腐らない食品が多いため、カビを見たことがない、とか。食を通じた学びの機会が減少しているんです。

先日、小学校の家庭科の授業で餃子を作りました。餃子の皮を「一枚当たり厚さ0.7mmにしてください」というと、子供たちは餃子の皮を何枚か重ね合わせることで厚さを測るんですよね。地域の野菜を使うことで環境や自然との関係について学ぶこともできる。ヴィーガン餃子は宗教や食の多様性にも対応できます。食は学びの宝庫なんです!

栗岡:今日は、餃子の起源についてもお話をいただきましたが、まさに吉川さんは「医食同源」を現代にアップデートし、実践されていますね。

吉川:将来はファクトリーを作りたいという構想があります。原料ファーム・製造・物流まで一貫でき、加えて弊社の商品を通じて人々が交流できるようなレストランがあるような施設をつくりたいんです。

栗岡:それはとても楽しみです! フードテックというと、テクノロジーに目が行きがちです。しかし、古くから「食べること」とは自然と人とテクノロジー(科学含めた)の調和で成り立っているものなのだと、今日のお話で再認識しました。

私たちが大切にすべきことは、どうすれば「売れるか?」ではなく、どうすれば家庭や食卓という社会を「幸せにできるか?」を探求し続けること。普遍的な問いを吉川さんからいただきました。今日はどうもありがとうございます。

吉川:はい、これからも東京ヴィーガン餃子を通じて、「餃子」で家族をつなぎ、世界を笑顔で包んでまいりますよ!