Dialogue
くりやの対話

2022/03/31

日本の「学び」をアップデートする

小林さやかさん×栗岡大介

くりや創業時、その輝きから大いに刺激をもらった、「元ビリギャル」・小林さやかさん。コロンビア教育大学院への留学を前に、「学び」をテーマに対話しました。

小林さやかさん

坪⽥信貴著「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應⼤学に現役合格した話」の主⼈公ビリギャル本⼈。2010年に慶大卒業後、聖心女子大学大学院で学習科学修士課程修了。学生や保護者を対象に全国で講演活動に取り組む。2022年秋からコロンビア教育大学院 Cognitive Science in Educationプログラムで留学予定。著書『キラッキラの君になるために ビリギャル真実の物語』(マガジンハウス)。

「なぜ学ぶのか」ビジョンが明確になった今

栗岡大介:コロンビア教育大学院の合格、本当におめでとうございます! 久しぶりにお会いしたらキラキラとしたエネルギーに満ちていらして驚きました。

小林さやかさん:ありがとうございます!そう、今すごい燃えてる!

栗岡:はじめてお会いしたのが、ちょうど2年前、2020年の春でしたよね。当時の僕はまだ独立前で、いい刺激をたくさんいただきました。その数ヶ月後、夏くらいにお会いしたら、さやかさん元気がなかったんですよ。その時「留学で何を勉強するんですか?」って聞いたのに、「もっと自信を付けたい」って少しズレた返答があって。「あれ、大丈夫かな」って思っていたんです。

小林:辛かったことすぐ忘れちゃうんですけど(笑)、たぶんかなり落ちていた時期でした。コロナ禍で講演の仕事もほとんどキャンセルになっていたし、思いがけない様な出来事が他にもいろいろ重なって自己肯定感が下がってたタイミングだったんです。そもそも留学を決めたのも、漠然と「このままじゃだめだ」「世界を見ないと」って自分を追い込んでいたところがあって。

そこにきて英語の勉強が本当に大変で! 留学するにはTOEFLの点数をクリアしなきゃいけないのに、出願ラインまで全然届かない。「ビリギャルはなんであんなに努力できたんだろう」って、どんどん自信なくしちゃってたんですよ。

栗岡:そこから、今の「キラキラ」への振り幅がすごいなあと感心しています(笑)。復活の決め手は何だったと思いますか?

小林:大学院への留学出願のためにエッセーを書くんですが、そのプロセスのお陰だと思います。英語の勉強が一段落して、ようやくエッセーに取り組み始められたのが去年の秋。そこからすごいスピードで自分の人生を記憶のある限り全て棚卸ししたんです。ようやく点と点が線につながって、ビジョンがはっきりした感覚がありました。あんなに自己分析して、未来に思いを馳せたこと、今までなかったから。

栗岡:どんなビジョンが見えてきたんですか?

小林:『ビリギャル』が出版されてから、500回以上講演活動を続けてきて。昔の私のようにSOSを発している子供たちに向けて「一歩踏み出す勇気を」って伝えてきたけれど、一方ではこのままやっても社会は変えられないってことも実感してきた。自分の人生を振り返った時、やっぱり坪田先生との出会いが本当に大きかったんですよ。あと、私の全てを肯定してくれたお母さん。だから、これから私がやるべきことは「坪田先生のような教育者と私の母のような保護者を増やすこと」だ、と。

栗岡:変革の対象が子供たちに加えて大人に向けて、拡がったんですね。

小林:そう。日本の教育現場では「学びを科学的に捉える」ことが避けられがちでした。世界では学習科学の研究がどんどん進んでいるのに。

とはいえ、日本の学校の先生が今の体制を変革していけるかって言ったら難しい、忙しすぎますよ。私も現場を見てきて、先生たちのせいじゃないことは痛感しました。だったら、私は先生たちを効果的にサポートできるように、その仕組みづくりを模索していくべきだ、って。

今回の留学は「日本の代表として行ってくる」くらいのつもりでいるんです。私がコロンビア大学での学びを通じて、日本の教育のアップデートに少しでも貢献できるものを身につけるんだ、と。そしていつか「日本は世界一幸せな子供が育つ国」と呼ばれるようにしたいんです。人生を棚卸しする中で、私の「学ぶ意味」に心から納得することができました。今は軸が揺らがなくなった感覚があります。

「Study with me」で見えた学びの形

栗岡:僕はさやかさんに起業家としての素養を感じています。次の時代に必要なことを直感的に察知して、自分からまず動いて、周りを巻き込んでいける人だから。

さすがだと思ったのは、コロナ禍で辛い時期でも「Study with me(※)」を始めましたよね。「私も勉強するから、一緒に勉強しよう」って。コロナ禍で寂しい、一人で勉強したくない!と思う人が増える中で、学びの場所と仲間をオンラインで提供するサステナブルな事業を作ったと思いました。「どうしたら人は学びたいと思えるか」という、より大きな仕組み創りへ興味が湧いてきているのかなあ、と。

(※YouTube「ビリギャル チャンネル」のコンテンツで、週1回1時間、勉強している様子をライブで流すというもの)

小林:実はその時、自分自身でも勉強を一人で続けることの辛さを実感していたんです。ビリギャルの時は坪田先生というメンターがいて全て導いてくれたけど、今回はそれがないから。だからこそコロナで休校になって一人で勉強しなきゃいけない学生さんたちの気持ちも痛いほど理解できて、自分も何かできないかなって。

栗岡:ライブチャットが毎回驚くほど盛り上がっていましたよね。質問とか感想でチャット欄が読みきれないくらい。参加者も、最初は子供が対象だったんだけど、次第に大人も多くなっていて。

これまでの「学び」って、上下関係、均質化、大人から子供に教えるものという固定観念があるように思います。一方、さやかさん自身が学ぶ姿を見せるということが、参加者とフラットで、かつ多様性のある関係を築くことに繋がっていった。日本の教育には多くの改善点があると思いますが、「Study with me」では、未来の学びの形が垣間見えた気がしています。

小林:そう言っていただけて、ありがたいです。チャットを通じて彼ら彼女たちの思いも知れるし、会ったことはないけど繋がっているという感覚をお互い持てました。親子も一緒に参加してくれていたりもして。私が理想とする学びがそこにあるって実感がありました。

日本社会ではずっといまだに「勉強=学校でやるもの、子供のやること」という価値観がある。これをぶっ壊したい。みんなそれぞれ学びつづけるんだよ、大人こそ学ぶんだよ、って。「勉強しなさい」から、「一緒に学ぼう」っていうのが、スタンダードになるといいですよね。

広さよりも深さで繋がる時代

栗岡:それにしても、コロナという逆境も学びの機会に変えて、オンラインでの新しい繋がりも楽しんで。しなやかで、たくましいなあ、って思ってました。

小林:そうね、一度ドーンと落ちてから、かなりたくましくなった(笑)。本当に色々な人が助けてくれましたし。

今回のコロンビア大学院合格で「努力の天才」とか言ってくださる人がいたんですけど、全然そんなことないんですよ。自分のやりたいと思ったことに貪欲なだけ、それから「人が好き」なだけ。いろんな人に出会って、応援してもらいました。

栗岡:だから、さやかさんは学び上手なのかもしれないですね。「助けて」と言える大人って多くないですよ。そもそも、自分が「できない」ことを認めるのは難しいし、それを口にするのは「恥ずかしい」から。二つの壁がありますよね。

小林:そう。「助けて」って言うの、大人にとっては勇気がいることですよね。でもこれからすごく必要なスキルになってくると思っています。

栗岡:僕自身、支援者の立場としては、「助けて」と言えない方々に対して、こちらから「僕に何ができますか?」って聞いてみるようにしているんですよ。そうすると「実はこれが足りなくて」って話してくれることが多い。これはイコール「助けて」なんじゃないかな、って。

小林:そっか、そうだね。「先生たちこそ学びなさい」って言われても、ただ重たく感じるだろうし。これから私も「何に困っていますか、私に何ができますか」って聞いてみる。うん、そうしてみます!

栗岡:過去、「ビリギャル」が広まるにつれ、社会ではミスリードも同時に起きていたと思うんです。「偏差値」や「慶應大学」というマーケティング的なキーワードに集まる人達も多かったと思います。さやかさんは講演活動をする中で「優劣を競う社会の中で、効率よく偏差値を上げていく方法」を広めたいわけじゃないのに、そう思われがちなことには長らくモヤモヤも感じていらっしゃったのかな、と。

小林:それはありましたね。嘘ではないんだけど、誤解されるなあって。

栗岡:これからのさやかさんの気づきはコンテンツとしてマスメディアで広く発信するというよりは、さやかさんの生き様を通じて体現していくんでしょうね。コロナを契機に、遠くにいても同志と出会える、繋がることができる時代だってわかったじゃないですか。だからこそ、広さよりも、深さで。さやかさんの想いはもっと深いところで伝播して影響を及ぼしていくだろうと思います。

小林:そう、確かに。教育って全部の問題に関わっているから、深いところでみんな繋がることができているなって思う。もちろん、栗岡さんとも。一緒にいい未来を作っていきましょうね!

栗岡:そうしましょう!